受かる・落ちる- 採用の基準は

◆ 実態は「基準はなく、場当たり的」

新卒就活・転職によらず、共通することは採用されれば嬉しく、落ちれば悲しいということ。こんな当たり前のことを敢えて持ち出したのには理由があります。

  • 殆どの会社においては採用について当落の明確な基準はありません
  • 一次/二次〜最終専攻によらず、選ぶ時は殆ど当てずっぽう「えいやっ」です。
  • 落ちても能力を否定された訳ではないので気にする必要はありません別の会社を受ければいいだけです。

これは新卒ならびに転職において数多くの選考を経たのち、興味を持って社内外の状況を意識して見聞した上での結論です。

そんなはずはない、いい加減な話を、とお考えになるのも道理です。しかし採用という作業の内容を考えると、正確な人物評価が行われたと判断するほうが間違いの可能性が高い。
以下のように表すと少しご納得いただけるかもしれません。

  • 短時間(30分から1時間程度)で相手の人格・能力を正確に把握する
  • 3人以上の候補者から正しい1人を選ぶ(実際の採用は数十〜数百の候補から選ぶ)

この2つはとてつもなく難しい作業です。

◆ 人物鑑定はスキルの中でもトップクラスの能力

採用とは人物鑑定を行うことです、もうこの一言でお分かりと思いますが、スキル・能力と言われる中でも最も高度なものの一つです。

はっきり申し上げますとまずお目にかかれないようないわば才能であり、初見の印象から何かを感じとる動物的な感覚と、それを自分の中で理論的に構築し説明できる能力です。

目の前の候補者が特定の会社環境や業務に適性を持つか否か、ということを正確に判断できるサラリーマンなどまずいないと言っていいでしょう。

実際「成功する人事採用とは」というテーマで膨大な数の書籍が刊行され続け、メディアでも議論が絶えませんが決定版は皆無です。

使い古された言い回しながら「人間性とは最も難解なテーマ」なのです。

◆ 冷静に選べる候補数の上限は3〜5人

経験豊富な営業職の方に聞けばわかりますが、優秀なセールスマンは顧客が商品を選ぶ時、検討対象の商品を3点ぐらいに絞って勧めます。
それ以上の候補数は顧客が混乱して選べなくなるからです。

タイトルに3〜5人としましたが、実は候補が5つもあるともう目移りして合理的な判断は出来ません。それと比べると求人への応募は普通数十人、時には100人を超えることも珍しくありません(氷河期の時は1,000人の応募から1人採用ということが普通にありました)。

こんな多数から短期間のうちに合理的基準に基づいて優良な候補を数人ないし1人に絞り込むなど無理です。
すなわち一次選考から面接まで、冷静かつ合理的な判断の元に行われることはないのです。

重ねて申し上げます、選考がいい加減である以上落ちても能力不足を嘆く必要がないし、逆に採用されてもその会社の業務に適性があるとは必ずしも言えないのです。

ただ上記をご覧になった上で、最終選考の時点ではそれなりに人物評価が行なわれるのではないかとお考えの方もおられると思います。
それに対し一つ明確な根拠を挙げさせて頂きます。

採用関係者は最終選考に関わる役員クラスを含め、人事のプロではなく全くの素人です。

例えば皆さんが応募した時、特に書類選考の段階ではその殆どが総務関連の部門によって行われることを認識して頂きたいと思います。

◆ 採用関係者は皆採用の素人

上記のタイトルだけで頷かれる方もいらっしゃるかもしれません。
分かりやすく例えますと、例えば設計や研究開発に就くには専門の理系知識と経験・スキルが、エンジニアリングにおいても同じものが必要であることはすぐ分かります。

調達や物流も同じ、多くの場合必須の資格と知識も必要とされます。
私は営業職ですが、資格不要と思われているこの分野すら会社が重要と位置付ける案件には経験とスキルを持つ担当者が充てられます。

ひるがえって採用はどうか、多くの会社では、それが相当の規模であっても総務部門またはそれに属する人事課、つまり部門名として人事関連というだけのスタッフが選考の大部分を担当します。

当然ながら総務部門でありますから大部分は経理や庶務的な業務で一年中人事関連の仕事であることは稀です。
つまり日々業務を通じて採用のスキルを磨いている人が選んでいるわけではないのです。

最終選考において役員が選ぶ場合も同様で、別に人を見るスキルによって役員となった人達ではありません。同じく人物鑑定の能力は無いのです。
そもそも前述のような才能を持つ人がサラリーマンの枠に収まろうはずもありません。
せいぜい創業者社長のうちごく少数がわずかにその能力を持つ程度です。

誤解なきように申し上げますと総務部門は素人でも出来ると言っている訳ではありません。
それどころか経理や庶務業務とは財務や会社経営のテクニカルな知識や資格・経験、そして高レベルの対人調整力が求められる仕事です。

しかし「人物評価」「人物鑑定」とは何の関係も無い職能であるにも関わらず、それが日本の慣例というだけで全く畑違いの人事業務を担当させられているということが間違いの元なのです。

◆ 採用の結果は担当者の評価にならない

しかも採用の結果がその担当者の実績として評価されることもありません。
基本的に新人の仕事上の出来不出来は配属先部門の責任とされるからです。
優れた人材を採用しても評価されず、能力の低い人物を選んでも査定には影響がない。

業務能力に関してなんら指導の無い状態ですから、当然ながら何年経とうが採用手法に改善はありません。

◆ 採用結果のフィードバックは行われない

また、これは一番の問題点かもしれませんが、採用後の結果について配属部門からのフィードバックに基づく検証と改善が行われることは殆どありません。

むしろ採用後の問題について、失敗した理由を追求することは普通タブーですらあります。採用から配属先まで複数の部門や役員など幅広く関係者の責任を追及することになるからです。
そのため原因不明のままミスマッチの採用が何年も続くという事態が普通に起こっています。

つまり採用活動については、いかなるかたちであれ改善らしいことはまず行われないのです。
採用業務の質が低下する、という以前にそもそも向上しないのも道理です。

最近ソフトバンクは採用にAIを導入したそうですが、理に適っていると思いました。不正確がつきまとい結果への責任を追求出来ないのならば、いっそのことAIに選ばせて足切りをしたほうが効率が良い。
実際7割程度の業務工数削減を実現できるそうです。
採用活動の質的向上とはあまり関係ありませんが、企業として生産性の向上という観点では正しいと思います。

皮肉ではなく今後国内においてはAIの主要な活用方法として普及するのではないかと真面目に思っております。

◆ 学歴・職歴偏重や「神スペック」は責任回避のため

優秀な人材を採用することは年々重要になっています。何しろ社員がどんどん高齢化しており、過去30年ほどリストラも続いて人手も慢性的に不足しておりますから新人を教える環境も貧弱です。
新卒であれ転職者であれ、新人は早期に戦力化出来るだけの能力が無いと困ると会社は考えています。

一方で世間の採用基準は「人物重視」「能力重視」とはやされています。ここに採用スキルがない場合どのようなことが起こるか。

一見矛盾するようですがここに学歴・職歴偏重、または俗にいう「神スペック」という要素が入る理由が生じます。

後日問題が起こった時の責任回避のため書類上の見た目の良さを重視した選考の実施。
つまり採用が失敗したとなった時、関わった部門や役員全てが「書類を見て欲しい、こんなに良い人材を採ったのだ」という言い訳とするためです。

こういう会社は二次選考以降も同じ心理で上へ上へと応募書類を先送りする傾向があり、人物などあまり見ずに内定となる場合が多い。

受ける側としても自分の資質と会社への適正を見極めて欲しいと思って自己PRや面接に注力しているにもかかわらず、無駄な労力となってしまいます。

私自身が新卒就活や転職活動の最中、能力重視の採用と言われながら何故あんな浮世離れした募集要項や、まるで三流小説の主人公のような求める人物像を載せるのだろうと不思議だったのですが、会社に入り自社の担当者や顧客に本音を聞いて分かった次第です。

残念なことですが採用後に新人に関し問題が起きた時の保険として学歴や職歴の華やかさで選んでおく、という体質の会社は極めて多いというのが実情です。

なお神スペックの馬鹿馬鹿しさは言うまでもないので多くは述べませんが、私が新卒就活の時は「TOEIC750点以上」が決まり文句でした。
(私が入社した会社を含め)そのほとんどが海外取引業務が皆無の会社だったのは今ともなれば笑い話ですが、当時はグローバルな人材に必須と皆さん大真面目でした。20年を経て現在も大した変化はありません。

今で言えば「社内公用語は英語」とのルールがある会社がそれにあたるかと。入社後ろくなことは無いので可能な限り避けるべき求人です。

◆ 素人採用を経て考えた本当に大事なこと

繰り返しますが総務部門の皆さんが素人なのではなく、日本の会社そのものが人の採用に素人なのです。昭和の昔から変わっていません。
前述の通り「人物を測る」とは大変な才能で、恐らくは専業の人材スカウト職を含めてもその能力を持つ人は実はごく少数と思っております。

そんな状況において新卒就活、そして転職を繰り返した結果以下の結論に至りました。

  • 落ちたことは能力と関係がない、同じく受かっても相手の適性判断は信用に足らない
  • 会社ではあらかじめ採用が失敗した場合の言い訳を準備するぐらい、ある意味いい加減な選考をしている
  • 入社後あてになるのは適性ではなく環境への対応力のみ。入社後は早急に会社のルールと業務スタイルを身につけ信用を得る

繰り返しますが素人採用です。落ちても全く気にする必要が無い代わり、入社しても適性があるわけではなく、誰かが守ってくれる訳でもありません。
よくある「丁寧に指導」などという言葉は信じるべきではない。

私たちがトラブって捨て駒にされた時の言い訳まで暗黙のうちに社内で準備された上での内定なのです。

と、ここまで述べさせて頂きましたが当然次の疑問が生じると思います。

  • 素人採用であったとして、そこから内定を得るには具体的にどうすれば良いのか(すべきこと/NG例)
  • 入社後に会社内で信用を得る働き方とは

このブログで申し上げたいテーマであります。別稿にて私の失敗例を含め、つつまず申し上げたいと思います。

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